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トランプ大統領就任で注視すべきは「立憲・野田氏」の対米姿勢 米国から“ポチ”と (アエ - 七転八起Shichitenhakki

2024/11/19 (Tue) 14:31:11

トランプ大統領就任で注視すべきは「立憲・野田氏」の対米姿勢 米国からはすでに“ポチ”だと思われている 古賀茂明:AERA dot. (アエラドット)
https://dot.asahi.com/articles/-/240649?page=1



古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など





 アメリカの大統領選の結果の分析が始まった。

 トランプ前大統領圧勝の理由としてさまざまな要因が挙げられるが、そのうちの一つに、ハリス副大統領による「民主主義の危機」の訴えが空回りしたという評価がある。トランプ氏が独裁主義者で、彼が大統領になれば、米国の民主主義が破壊され、米国民が独裁政治の犠牲になるというのは、客観的には正しいように思えるが、有権者の心にはそれほど響かなかったというのだ。一方、トランプ氏は、インフレと移民の脅威はハリス氏の責任だと訴えたが、そちらの方が有権者にアピールできたというのである。

 米3大ネットワークは、基本的に反トランプの論調が強いが、選挙後の放送では、選挙中の民主党キャンペーンで見られた困難な状況について、比較的正直に報じているものがあり、参考になる。

 例えば、民主党の支持者が、選挙中に苦労したのは、戸別訪問でハリス支持を訴える時、「トランプ氏が当選したら、アメリカの民主主義が危機に陥る」という話をしても、多くの人々は、インフレによって日々の生活に精いっぱいで、「民主主義の危機? So what?」という反応だったというエピソードがある。

「だからどうした? 私は今それどころじゃない」と言われて、二の句が継げなくなる場面が多く、さらには、「そんな話をしに来ること自体が、民主党が庶民のことをわかってない証拠だ」と非難されることさえあったという。

 確かに、私が今年7月にニューヨークに1カ月滞在した時に人々と接した実感でも、特に食料品や日用品、また、ガソリンの値上がり幅が非常に大きく、これでは低所得層のみならず、中産階級でも相当な打撃を受けているだろうということは容易に想像できた。

 最近はかなり落ち着いてきたが、それでも一度上がった食料品価格などが下がるわけではなく、生活苦は全く改善されていないと感じるのは当然のことだ。

 トランプ氏は、インフレと移民問題の解決は俺に任せろと豪語し、多くの有権者がそれを信じて投票した。

 しかし、トランプ氏が2期目の大統領に就任すれば、まさに民主主義を否定するような行動を連発することが予想される。例えば、イエスマン以外の官僚の大量解雇、過去の自己の犯罪の恩赦、親しい者たちの犯罪に関する司法への介入、移民の権利の侵害、女性の中絶の権利の制限などから始まり、警察、さらには州兵まで動員してのデモなどの市民活動の弾圧も行う可能性がある。また、イーロン・マスク氏など親しいビジネス関係者への規制緩和による便宜供与なども強引に進めるだろう。

■権力の暴走は極限まで進む

 さらに、彼に逆らう者に対しては、持てる権力を100%使って徹底的に潰しにかかる確率も非常に高い。

 これらにより、異論を唱えることを抑制する雰囲気ができたり、あるいは、トランプ派と反トランプ派の対立が激化したりして、話し合いによる政策の決定という民主主義に最も重要な要素が成立しなくなることも考えられる。

 共和党は、上院に続き、下院の過半数も占めることが確実と報じられた。大統領と上下両院を共和党が支配するいわゆるトリプルレッドが実現したことにより、トランプ氏を止める者がいなくなり、権力の暴走は極限まで進むだろう。

 あの戸別訪問を受けた時、民主主義の危機についてもっと話を聞いてハリス氏に投票しておけばよかったと振り返るアメリカ人が将来たくさん出てくるかもしれない。

 一方、日本では、トランプ氏とはかなり性格の異なる石破茂氏が自民党総裁、そして首相に選ばれた。トランプ氏に似ていると言われた高市早苗氏が敗北したことで、日本で高市トランプ現象が起きるのはとりあえず阻止された。

 しかし、自民党総裁選、衆議院選、そして今日に至る与野党の攻防やマスコミの論調を見ていると、実は日本でも米国と同じような現象が起きているのではないかという気がしてならない。

 今、日本では、「103万円の壁」の話から始まり、どうやって国民にお金を配るかという話で持ちきりだ。

 一方で、せっかく与党が衆議院で過半数を割ったというのに、例えば、違憲だと言われる集団的自衛権をどうするかという問題は全く話題になっていない。

 インフレに実質賃金の減少で、日々の生活のことを考えるのに忙しく、あるいは、目の前にぶら下げられたばらまき政策のニンジンのことで頭がいっぱいで、防衛論議など、全く頭に入らないという国民が圧倒的に多いということだろうか。

 これは、アメリカで起きたことと同じように見える。

 例えば、立憲民主党は集団的自衛権は違憲だと言っていたが、それを前提にすれば、防衛費の中身を吟味して集団的自衛権を前提にした支出は補正予算で削減すべきだと主張するべきなのに、そんな話は全く出てこない。また、トランプ氏の大統領選勝利を受けて、日本の当面の対米外交をどうしていくのか、あるいは、根本論に立ち返ってどう見直すのかという議論も日本の将来の命運を決する重大な問題であるにもかかわらず、国民の頭の中は素通り状態なのではないだろうか。

 このままでは、衆議院で与野党の勢力が逆転したのに、防衛政策は、安倍晋三政権以来の対米追従、中国敵視、外交より軍拡というこれまでの延長線上で進められることになりそうだ。しかも、トランプ大統領就任とともに、米国への従属はさらに強まる可能性が高い。

■今こそ日本の防衛政策を根本から議論すべき

 これまでの路線を変更することなど全く考えないまま、予算編成が今も進んでいて、表向きには12月下旬に決まることになっている来年度予算案の内容は、実は、官僚主導で12月上旬には、ほぼ決まってしまう。そして、一度それが来年度予算として成立してしまえば、既成事実となり、来春以降に大幅な見直しをしようとしても、石破政権になってからの最初の予算で認めてしまったものを否定することは難しく、事実上路線変更ができなくなる。官僚たちは、それを狙って、自分たちと族議員にとって都合の良い政策を予算に盛り込んでいるのだ。

 2023年8月22日配信の本コラム「台湾有事を起こすのは平和主義を捨てた日本だ 麻生氏『戦う覚悟」発言にみえる大きな勘違い』で紹介したとおり、海外のメディアや専門家は、日本の外交安全保障政策が「平和主義を捨てて軍拡路線に転じる」と評価しているが、今のように国民の無関心が続けば、安倍政権が敷いた戦争路線の上を漫然と進み続けることになり、引き返せないということに気づいた時には、もう手遅れということになりかねない。

「そういえば、与野党逆転したあの時に、どうして日本の防衛政策を根本から見直すという議論をしておかなかったのか」と後悔しても後の祭りということになるだろう。

 米大統領選の結果を見て、「アメリカは酷いことになったね。アメリカ人は何を考えているのだろう」などと言っている日本人は、能天気でおめでたい人たちだ。

 さらに、私がこうした懸念を強める要因として挙げておきたいのが、野党第1党である立憲民主党の代表が野田佳彦元首相であるということだ。なぜなら、野田氏は、米国から「アメリカのポチ」だと評価される政治家だからだ。

 今月6日付の日経新聞朝刊にそれを示す非常にわかりやすい記事があった。

 米ジョンズ・ホプキンス大ライシャワー東アジア研究センター長のケント・カルダー氏のインタビュー記事だが、その中でこんな発言があった。

「日本が安全保障法制で集団的自衛権の行使容認を打ち出したことは米国にとって極めて重要だ。……仮に立憲民主党など野党が破棄を強く主張すれば深刻な問題になる」

「(日本)政府は既存の合意を明確に拒絶するべきではない。集団的自衛権を拒む政策を打ち出したり、米軍普天間基地の辺野古移設を取り消したりすれば摩擦を生む」

「……日本の二大政党の間で大連立が実現することも考え得る。政治が安定し、米国の観点からもポジティブな結果をもたらすかもしれない」

「立民代表の野田佳彦元首相は米国で高い評価を受けていた。09年に発足した民主党政権は初期に比べて後半は現実的になった。……野田氏が率いる立民に対しても楽観視している」

■野田氏は自民党と同じ米国の「駒」

 この発言から読み取れる、野田立憲代表に対する米国の期待は、以下のようなことだと考えられる。

「立憲民主党は、現行の集団的自衛権行使を容認する法律は違憲だと言っているが、集団的自衛権は米国にとって非常に重要なので、もし、立憲がその破棄を強く主張すれば深刻なことになるが、野田代表はそんなことはしない」

「野田氏は、米国で高く評価されている。できれば、自民との大連立政権を作って欲しい。そうすれば、米国が、中国やロシアや北朝鮮と対峙する上で安心して、日本を米国の戦略の中に位置付けることができる」

 つまり、野田氏は、自民党の政治家と全く同じ米国の駒として見られているということだ。

 野党が多数を取ったとは言え、その中核となる野党第一党の党首が、与党自民党政治家と同様に米国追従のポチであるとみなされている。米国の専門家から自民との連立の可能性まで指摘されて大きな期待をされているのだが、「政権交代前夜」と銘打って戦った立憲の選挙戦は一体何だったのだろうか。

 米国の専門家が詳細に分析した上で下したそのような野田氏の評価は、皮肉なことに、私がかねて主張してきたことと全く同じだ。

 日本の平和主義が空洞化しているという現実があるが、それが権力の側に立っている自民党の中で起きているだけでなく、平和主義の担い手だったはずのリベラル勢力の中でも起きているということは深刻だ。

 多くの日本人は、米国の専門家が気づいているこの事実に、全く気づいていないのではないだろうか。繰り返し言っていることだが、そのことこそが、日本の真の危機なのだ。

 103万円の壁だけでなく、また、政治資金規制のあり方だけでなく、日本の外交安全保障政策、特に集団的自衛権廃止を含めた対米外交の見直しの議論を一日も早く始めてもらいたい。

 野田立憲代表がそれをやらないとすれば、米国が見ているとおり、野田氏は米国のポチだということが証明されたと言われても仕方ないだろう。


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